自己洞察瞑想療法(SIMT)の実践方法は,様々な方法があります。
ここでは,セッション1で扱われる自己洞察と呼吸法について簡単にご紹介します。
【自己洞察とは】
「今,ここ」の瞬間に,自分の心を観察し,現在進行形で自分を深く知ること。
その実践は、「呼吸法」ともに行う「基本的自己洞察」と,日常生活の行動中に行う「行動時自己洞察」があります。
【基本的自己洞察】
「呼吸法」を実践しながら行う自己洞察です。安心安全な場所で行い,自己洞察を習得するための練習になります。
【呼吸法】
呼吸法による自己洞察は,「ゆっくり呼吸法」と「自然の呼吸観察法」があります。
- ゆっくり呼吸法
細く長くゆっくり息を吐き(4~6秒くらい),自然に素早く吸う呼吸(2,3秒くらい)を意識して行い,観察します。強い感情が起きた時に行うと,落ち着きやすくなります。 - 自然の呼吸観察法
ゆっくり呼吸法ではなく,自然の呼吸を観察します。
「ゆっくり呼吸法」「自然の呼吸観察法」ともに以下の要領で呼吸を観察します。
- 目を開けたまま呼吸に意識を向けます(難しい方は,初めのうちは目を閉じても良いです)。
- その間にも,感覚,感情,思考,欲求などの心が動きます。
- それらも観察し,自覚して,また呼吸法に戻ります。
- 強い感情や身体反応,病気の症状などが起きている場合,注意がそれに向かっても,「それがある」と自覚して,また呼吸に注意を戻します。
- 不快なものを消そうとするのではなく,呼吸に注意を移動するだけです。
初めは難しいので,5分など短い時間から始めて,10分,20分,・・・,と自分のペースで徐々に観察する時間を長くすると良いです。
※SIMTの呼吸法は,他のマインドフルネス瞑想で行われている呼吸瞑想と類似するトレーニングですが,その理論的背景は西田哲学の各階層での「自分を無にして映し包む」という「自覚」の思想や「場所」の論理を根拠にしている点で違いがあります。
そして,単なる呼吸瞑想では心理療法になりませんので,SIMTのプログラムでは,以下のことを大切にしながら,呼吸法の中に心の病を治す様々な技法を織り込んでいきます。
- 注意(意識)を分配する
「今,ここ」の瞬間に複数の心理現象を同時に意識しながら観察する。 - 心に包んで映す
自分の心は「意識されたものを包んで映すもの」であることを実感し,自覚する。
(詳細なトレーニング内容については、大田健次郎(2013)『うつ・不安障害を治すマインドフルネス~ひとりでできる「自己洞察瞑想療法」』佼成出版社をご参照ください。)
【呼吸法の作用】
うつ病や辛い状況にある時,否定的な思考ばかりに注意が集中しがちになります。嫌な過去の出来事を繰り返して考えて辛くなったり,これから起こることを考えて過剰に心配したり…。
呼吸法により自分を苦しめる思考への囚われから離れ,思考を作り出している自分の心の働きや,今起きている出来事を自分本位に解釈を自覚することで,客観的に全体性を見守る視点が生まれます。
不安,緊張,ストレスに見舞われると呼吸は浅くなり,息苦しさを感じたり,時には呼吸困難でパニックになることもあります。
呼吸法により呼吸を整えると,自律神経系に作用しリラクセーション効果や,セロトニン神経を刺激し精神の安定が得られます。
また,今ここにいる自分に立ち返ることができますので,トラブルにあっても心の余裕が生まれ,適切な判断や決断が可能になります。
【行動時自己洞察】
日常生活の行動時に行う自己洞察です。基本的自己洞察で練習したことを現実場面で応用します。
日常生活の行動中に,以下の要領で自分の感覚を自覚する自己洞察を行います。
- 今の瞬間の感覚,身体(手足)の動きに意識(注意)を向けます
- 今の瞬間の行動に関係ないことを考えないようにします
- 何か考えが浮かんだら,それを観察して,また,感覚や身体の動きに意識を戻します
食事,歩行,入浴,運動,休息,作業,会話など様々な行動時に自己洞察を行います。
自分や他者を苦しめる無用な思考,心の作用に囚われず,不快なことを受け入れて,今ここで大切な価値実現のための行動に意識を向けます。
ポイントとしては,考えが浮かぶことは悪い事ではなく,ただそのような心の作用があっただけであり,考えることに対して「悪い」という評価判断をせず,身体の動きや感覚に意識を向けます。
今という瞬間をおろそかにせずに,「今,ここ」の行動に集中できるよう努めましょう。
参考文献
大田健次郎(2013)『うつ・不安障害を治すマインドフルネス~ひとりでできる「自己洞察瞑想療法」』佼成出版社.
大田健次郎(2014)『不安,ストレスが消える心の鍛え方 マインドフルネス入門』清流出版.